治療方針・医師哲学

根本的な治療

病状の本質に焦点をあてる根治療法を最も重視しています。
症状を抑えるだけの治療や一時しのぎの対症治療は極力行いません。現在、一般的に行われている医療には、対症療法が少なくありません。私は、大半の薬物治療に対して、症状を一時的にコントロールするだけの対症療法で根本的に問題を解決しない治療と考えており、薬物療法は必要最小限にするように努めています。本当に必要な鎮痛剤や抗生剤の投与は行いますが、内服・注射を問わず、副作用が危惧される薬剤の投与や漫然とした長期の投薬は行いません。
根治療法として私が重要視しているのは、患者様の意識・心の持ち方(メンタル)、生活習慣、運動療法(日常生活での運動の取り組み)、そして傷んでしまった組織を修復する根本的な手術、です。

丁寧な手術

手術は、同じ名称の手術であっても、その手術を行う医師によって、手術のやり方・内容・結果は大きく変わってきます。患者様にとっては同じ手術を受けていると思っていても、その医師が何を重視するかで、想像以上に違いがあるということです。多くの手術をこなすことを重視する医師もいれば、手術時間を短くすることにこだわる医師もいます。
私が手術で最も重視する点は、丁寧な手術をすることです。当然、手術時間も短い方が良いですし、ニーズがあるのでたくさんの患者さんの手術をこなした方が良いという面は否定しませんが、やはり一番大事なのは、一例一例に全力を尽くして、最善と思える手術を丁寧にやりきることだと考えています。よって、手術時間を短縮することや多くの手術をこなすことにはそれほど執着せず、たくさんの病変がある症例などは、時間がかかっても妥協することなく、治すべき病変は全て修復するようにしています。
私にとって手術は一種の芸術(アート)のようなものであり、手術の質(クオリティ)にこだわり、妥協することなく丁寧にやりきった肩関節は非常に美しい状態になります。肩関節鏡手術の職人としてのプライドを持って、今後もこの哲学で手術を続けていきます。

患者様の意識・心

人間の身体と心は密接につながっています。病気の発生から、痛みの感じ方、そして病気の治り方まで、実際に行われる医療行為だけでなく、患者様の意識・心が大きく影響します。整形外科医の間では、交通事故や労働災害などによる疾患、すなわち被害者意識のでやすい病状はなかなかすっきり治りにくいというのが共通認識です。ポジティブな人がネガティブな人に比べて治りやすいのも、その通りです。医師がいくら最善と考える治療を行っても、患者様のメンタル状態を軽視していては期待される結果が伴わないことがあるということです。例えば、痛みですが、痛みというものは非常にファジーな部分があり、同じ病状・けがの状態でも患者様によって、感じ方・捉え方は大きく異なります。そして、痛みや悪いところに意識を向けすぎることは、それがなかなか消えにくいことにつながる側面があります。
こういったことから、私は患者様の意識・心も重視し、できるだけ患者様が前向き・プラスの面に意識が向かうような話をしながら治療を進めるようにしています。必要な方には、マイナス面やネガティブな点に過剰に意識がいかないよう、ゆっくりと話し合うようにしています。

自立の医療

近年、医療は非常に高度に発達し、特に日本では国民皆保険のもと、誰でも高度な医療を受けられるようになりました。これはこれで素晴らしいことですが、反面、このことは医療を受ける側(患者様サイド)にも供給する側(医療機関サイド)にも甘えの構造、依存の体質を根付かせてしまっている側面があります。医療を受ける側にとっては、病気になっても治してもらえるという安易な意識が定着し、自分で何とかしよう、病気にならないために頑張ろうという意識は希薄になりがちです。医療を供給する側にとっては、保険システム(基本的に1~3割の自己負担)があるので、本来かかるコストの7~9割引きで医療を供給するという、いわば保護産業としての甘えの構造が出来上がっています。このことは年間四十兆円近くという膨大な医療費を使いながら、病気はいっこうに減らない、本当に健康な人が少ない、という日本の現状につながっていると私は考えています。
この日本の現状をすぐに変えていくことは私一人にはできませんが、これから大事なことは、医療を受ける側も供給する側も「自立」の意識を持つことだと思っています。「依存の医療」から「自立の医療」への転換です。医療を受ける側は、自分の健康は自分で守る、自分で治すという意識を持つことが必要になってきます。私の患者様には、手術を受けるときは自分で決断し、リハビリも積極的に行い、自分で治していくという姿勢を持ってもらうことを私は大事にしています。我々、医療従事者は保険制度に甘えることなく、本質的な本物の医療を提供し、本来の価格(10割負担)でも選んでもらえるように努力・研鑚していくことが必要だと考えています。
こうした意識を、医療を受ける側、供給する側の国民ひとりひとりが持つようになっていけば、日本の医療は大きく変わり、元々日本にある高度な医療技術と合わせてさらに発展し、世界に誇るべきすばらしい医療システムを作り上げ、世界の医療を先導する立場になっていくと思っています。